LGBTsの存在を認識した上での学校教育 vol.2
- 概要:
- 第25回服育ラボオンライン定期セミナー
- 日時:
- 2021年10月29日(金)15:00-17:00
- セミナー:
- LGBTsの存在を認識した上での学校教育 vol.2
- 講師:
- 宝塚大学 看護学部 教授 日高庸晴
- PDF:
セミナー/LGBTsの存在を認識した上での学校教育 vol.2講師:宝塚大学 看護学部 教授 日高庸晴
1.LGBTs(エル・ジー・ビー・ティーズ)の子ども達の声
「LGBTに関する意識調査」(博報堂DYホールディングスLGBT総合研究所)の調査によると、5.85%の人がLGBTsであると推定されています。
その中で学校において主に認識されているのは、制服やトイレなどの困難を抱えるトランスジェンダーの児童生徒で0.5%と推定されています。その10倍いるとされるLGB(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル)については、学校においては存在が見えにくくなっています。
しかしLGBの子ども達も先生の発言内容によっては「先生は自分の存在を認めてくれていない」と感じ、学校で居心地の悪さを感じている場合があります。
学校だけでなく日本全体が諸外国に比べ、LGBTsに関する取り組みも法制度も大きく遅れているのです。
2.LGBTsであることを理由にした犯罪件数
アメリカにおけるヘイトクライムの中で性的指向を理由にした事件は17.7%あり(2019 Hate Crime Statistics)、15~20%の間で推移しています。
日本では性的指向を理由にした事件の発生を国レベルで把握できていませんが、いじめ被害の背景に性的指向の関与がある場合もあります。中にはいじめを苦にして自死に至ってしまった子もいると思われます。
3.学校で取り組むべき7項目
性的指向や性自認、LGBTsの存在を視野に入れて、すぐに実施可能な教育現場における取組
①教員研修の実施(教員間の理解と意思統一・合意形成をなるべく早くに)
②授業の実施(グループディスカッション、不規則発言は絶対に放置しない)
③先生がポジティブに発言する(性的指向や性自認、LGBTについて)
④図書の配架(図書室、保健室、生徒指導室、校長室など複数個所)
⑤啓発ポスターの提示(高校・中学保健ニュース、市民向け)
⑥学級通信などで取り上げる
⑦保護者会や地域と連携する
*性別表記等にだけ特化した取組にならないように留意する。
まずは管理職研修が大切です。管理職研修から始まった学校は動きが早い感じがします。研修によって教職員の合意形成をしっかりととることが大切です。
教職員の学びが深まったら生徒への授業です。授業の中では「きもい」などの不規則発言はけっして許してはいけません。
教師がポジティブな発言をすることも大切です。授業だけでなくポジティブな内容を折にふれて伝えていきましょう。
また、性的指向と性自認の話をバランスよくするようにしましょう。(学校は性自認の話に偏りがちです)
4.周囲との違いに気付いた年齢
トランスジェンダーの児童生徒はLGBの児童生徒よりも早い10歳~11歳くらいの頃に周囲との違いに気付いています。(LGBについては中学生から高校生にかけて)
また、「思春期におけるライフイベント平均年齢」調査では、ゲイであることを認識したのは13.1歳、自殺を初めて考えたのは16.4歳、そして自殺未遂(初回)が17.7歳となっています。
LGBTs全体で約6割の児童生徒がいじめ被害を経験しており、不登校率は他集団に比して圧倒的に高率であることがこれまでの調査で明らかになっています。
学齢期のLGBTsの子ども達がこのような状況にあるという情報が、すべての先生に届いているわけではないことも問題です。
先生方が状況を認識し、子ども達に適切な情報提供をすること。ポジティブな声がけをし、存在する子ども達をポジティブに認識していくことが大切なのです。
また、カミングアウトしている人数が多いほど自殺未遂リスクが高くなっています。カミングアウトは必ず成功するとは限りませんし、アウティング(暴露)被害にあう場合もあるので、教師がむやみにカミングアウトを促すことは得策ではありません。
DVD上映/LGBTsの子どもの命を守る学校の取り組み ②当事者に寄り添うために~教育現場での落とし穴~
日高先生が監修された教員向け映像教材の上映も行いました。
日高先生資料(PDFでご覧いただけます)
参加者のご感想
- 課題感を抱いていたものの、何を参照してよいのか、またどこからフラットな知識を得てよいのかわからず、藁にも縋る思いで受講させていただきました。私自身の認識も改まり、大変参考になりました。これをどのように学校の運営に反映できるかが、私たちの課題です。引き続き、取り組んでまいりたいです。
- 本日は貴重なお話をしていただき、ありがとうございました。
それぞれの違いを個性であり、良さであると感じることのできる環境作りを今回のお話を参考に行いたいと思います。 - 大学は養護教諭養成校であり、LGBTsについて授業で学びを得て、自分なりにも理解しているつもりでしたが、まだまだ知らないことが多いのだと分かりました。
授業でどう取り組みをしていくべきなのか、教員はどう対応しなければいけないのかということについて考えることができました。
講師のご紹介
- 日高 庸晴
- 宝塚大学 看護学部 教授
京都大学大学院医学研究科で博士号(社会健康医学)取得。 カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部研究員、公益財団法人エイズ予防財団リサーチレジデントなどを経て現職。
最高裁判所/司法研修所による裁判官対象の研修や法務省の国家公務員人権研修、人事院のハラスメント研修等の講師を務める。法務省の人権啓発ビデオの監修、文部科学省が 2016 年 4 月に発表した性的指向と性自認に関する教職員向け資料の作成協力、自治体による啓発教材の監修を多く務める。
NHK「時論公論」「ハートネットTV」などメディア出演多数。