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服育活動レポート

【服育20周年記念イベント】服育とできる20のこと

【服育20周年記念イベント】服育とできる20のこと

【服育20周年記念イベント】服育とできる20のこと

No.:
【服育20周年記念イベント】服育とできる20のこと
日時:
2024年8月2日(金)10:00-17:30
場所:
梅田スカイビル36階(タワーウエスト)
スペース36L(講演会)第一部13:00-14:30 第二部15:00-17:00
スペース36R(展示)10:00-17:30
配信形式:
Zoomウェビナー(講演会のみ)
参加費:
無料
主催:
株式会社チクマ
後援:
文部科学省、大阪府、大阪市教育委員会、大阪市北区、兵庫県教育委員会、神戸市教育委員会、公益社団法人環境生活文化機構
協賛:
ニッケ(日本毛織株式会社)
協力:
一般社団法人ニッケ教育研究所、愛知服育研究会、大阪服育研究会、京都服育研究会、九州服育研究会、東京服育研究会、兵庫服育研究会、三重服育研究会、山口服育研究会
PDF:
セミナー詳細

2004年から始まった「服育」は、2024年に20周年を迎えました。

20年間応援してくださった皆様への感謝と、服育未体験の皆様へのメッセージを込めて服育20周年記念イベント「服育とできる20のこと」を開催いたしました。

 

服育のあゆみ~20年の取組と今後の展開~講師:有吉直美/株式会社チクマ 服育net研究所

「服育」は2004年、私達の活動の中から生まれました。
価値観が大きく変化する中で衣服の目的や役割を子ども達に伝えるためにはどうしたらいいのか。環境への対応が求められる中、身近な衣服からできることには何があるのか。

衣服に対する様々なお声が聞こえてくる中、暮らしを支えるユニフォームを扱う私達だからこそできることがあるのではという思いから「服育」という概念が生まれました。
2004年に大阪、東京の二か所で服育発表会を開催し、多くの方々にご来場いただきご関心を持っていただくことができました。

それから20年。主に教育現場において服育の取り組みを続けてきました。

服の持つ力やあらゆる世界とのつながりについて知り、服からできるアクションを起こしてもらうために、生徒向け・教職員向け共に服育について様々な観点から考えるセミナーやイベントを企画してきました。

さらに一人でも多くの子ども達の学びの可能性を広げるべく、「制服の一生すごろく」等の学びツールの開発や配布にも力を注いでおり、これまで多くの先生方にご活用いただき好評いただいています。

また、服育の輪が広がるにつれ社外との連携も増えてきており、大学や企業などとのコラボレーションについても進めています。

多くの方々からの関心の高まりを感じており、今後は教育現場はもちろんより広い社会の中で服育の取り組みを広げるべく注力していきたいと考えています。

被服心理学からみる服装の効果 「装い」で表すらしさとは講師:内藤章江/お茶の水女子大学 グローバルリーダーシップ研究所 特別研究員

被服心理学とは?

被服心理学とは、被服に関する社会心理学的研究のことです。被服が人の心理や行動においてどのような役割を果たすのかなど、被服の社会・心理的側面について明らかにする学問分野です。被服に関することばとしては衣服・服装という表現もあり、それぞれ下記のように定義されています。

【被服】身体の外見を変えるために用いる全てのもの(身体各部を覆い包むものから、かぶりもの・はきもの・ヘアスタイル・かつら・ヒゲ・化粧・アクセサリ―・入れ墨まで含む)

【衣服】被服よりも意味合いとしては狭く、身体の主要部分を覆い装飾する被服のこと

【服装】人間の身にまとうものの総称で、着装された状態

衣服の社会・心理的機能

衣服の社会・心理的機能としては下記の3つの機能があげられます。

1)自分自身を確認し、強め、あるいは変えるという「自己の確認・強化・変容」機能

2)他者に何かを伝える「情報伝達」機能

3)他者との行為のやり取りを規定するという「社会的相互作用の促進・抑制」機能

中でも衣服の「情報伝達」機能としては、➀アイデンティティに関する情報 ➁人格に関する情報 ➂態度に関する情報 ④感情や情動に関する情報 ⑤価値に関する情報 ⑥状況的意味に関する情報 があります。

「被服心理学」は何に生かすことができるのか?「服装の効果」は何に生かすことができるのか?そしてこれらを生かすと、どんなことが起こるのか?について、3つの研究事例を通じてご紹介します。

研究事例1「着こなしワークシート」の開発

このワークシートは学校制服の着こなし方、一般的な衣服の着こなし方を学ぶためのツールとして2013年に開発し、2023年に改訂版を発行しました。これまでに900を超える全国の学校で活用いただいています。

「制服を用いた学習」と「一般的な衣服を用いた学習」の二部構成になっており、身近な制服を用いて衣服の着用方法について学習と、一般的な衣服についてデザインや色、着用する場面との関係性について学ぶことができます。自分のことを振り返ったり友達の意見を聞いたりすることで、着装に関する意識を深めることができます。

研究事例2「学校制服により育まれる中学生・高校生の意識と教師・保護者の期待」

学校制服の「着用効果」について可視化する調査を、中学生・高校生(1648名)、教員・保護者(278名)にご協力いただき行いました。

この研究から、中学生・高校生は学校制服を「誰かに見てもらうための服」ではなく、「所属や立場を自覚させ、自尊感情を向上させるための服」と捉えていることが分かりました。

また、「着用したい」と思う学校制服を導入すると効果は増幅され、学校生活を良好にすることが分かりました。

この研究結果をもとに、学校制服の効果を測定・可視化・実感・共有できる指標とツール(ワークシート)を開発しました。

ワークシートは「制服着用時の気持ちを内省してみよう」と「制服着用時の気持ちを多角的に捉え、言葉にしてみよう」の二部構成になっており、まずは自分の気持ちについて内省します。その結果をふまえて可視化(言語化)し、衣服の力(効果・影響)についてクラスやグループで話し合うことで、制服の効果増幅とよりよい学校生活を目指しています。

研究事例3「ビジネスシーンにおける服装」

ビジネスシーンにおいては、集団に所属するメンバーが従うことを要請される判断、態度、行動などの基準(集団規範)があります。

ビジネスウェアは制服でなくても、制服に準じた服装を求められることが多いため、社会規範や服装規範を考慮し、意識して装う必要があります。

だからこそ学校教育において「衣服」を通じた学びを深め、「らしさ」とは何かを考えることが、社会に出た時に「自分らしさ」「社会人らしさ」を考え、表現する力へとつながるのです。

講師のご紹介

内藤 章江
内藤 章江
お茶の水女子大学 グローバルリーダーシップ研究所 特別研究員

2008年お茶の水女子大学 リーダーシップ養成教育研究センター 特任助教、グローバルリーダーシップ研究所 特任講師を経て現職。博士(学術)。専門分野は被服心理学、被服意匠・色彩学。衣服・着用者・着用場面の相互関係が着用者自身や周囲に与える心理的・生理的影響に関する研究に取り組む。著書に「装いの心理と行動」(共著)、「生活の色彩学」(共著)などがある。

ポリエステルのケミカル・リサイクルを通じた循環型社会の実現講師:宮坂信義/帝人株式会社 グローバル管理管掌補佐 兼 株式会社RePEaT 代表取締役

衣服の現実

日本における衣服のリユース・リサイクル率は35%、消費者は衣服の購入時に「価格」を最も重視する現状で、「循環型ファッション」の実現は容易くありません。衣服は様々な機能を持つため、人と社会のウェルビーイングに直結しており、繊維製品に広げてみてもタオルやマスクなど生活に欠かせないものばかりです。そして、幅広い機能に合致させるため、多様で多品種の生産がなされています。即ち、同じポリエステルでも透明で単一素材のPETボトルとは異なりリサイクルが進みにくいという現状があります。

世界の衣服生産量は20年間で倍増した一方で、1着当たりの着用期間は半減しています。また、全世界のGHG(Greenhouse Gas・温室効果ガス)排出量の8~10%は衣服産業由来で、海洋に流入するマイクロプラスチックの約35%は繊維由来です。そして、日本では年間75.1万トンの衣服が手放されています。即ち、持続可能な消費と生産形態の実現が急務となっています。

マテリアル・リサイクルの限界

サーキュラー・エコノミーでは、資源の代替や製品を長期間使い続けるビジネスモデルが重視され、繊維製品でもリユースの重要性やシェアリングの有効性も考慮すべきですが、GHGの排出削減においてはリサイクル事業が貢献できる余地が全体の約36%もあると言われており重要な位置付けにあります。しかし、リサイクルをすることで逆にGHGを増大してしまう事例もあることから、GHG削減効果をビジネスモデルごとに確認することが必要です。

世界の繊維生産量の半分以上はポリエステルです。ポリエステル繊維の90%は中国で生産され、そのうち約14%がリサイクル・ポリエステルですが、その原料は廃棄されたPETボトルとなっています。日本でPETボトルはボトルtoボトルでマテリアル・リサイクルされますが、中国では食品衛生の観点から認められていないため、ボトルto繊維でマテリアル・リサイクルされています。しかし、PETボトルの生産量はポリエステル繊維の生産量の1/5程度しかなく、原料調達に限界があります。そこで繊維のリサイクル率を上げるためには、繊維to繊維のケミカル・リサイクルを進めていく必要があります。中国においても、廃棄繊維からのケミカル・リサイクル繊維を、2025年に200万トン、2030年に300万トンに引き上げることを標榜しています。

帝人のケミカル・リサイクル技術 とエコシステムの醸成

帝人は1960年頃から製造工程で発生する繊維屑を原料に戻すケミカル・リサイクルの技術を持っています。

2000年代に入って、ボトルtoボトル、繊維to繊維(他素材、染料、加工剤混入原料)に対応したケミカル・リサイクル技術を確立しました。2012年には、ポリエステル繊維の循環型リサイクルシステムの構築を目指し、中国の紹興市に現地企業との合弁会社である浙江佳人新材料有限公司(佳人)を設立。そして、帝人のリサイクル技術をグローバルに展開するため、2023年に株式会社RePEaTを設立しました。

ポリエステル製品のリサイクル阻害要因として①他素材との混合使用が多いこと②染料、加工剤などを含有することが挙げられますが、帝人のGlycolysis-Methanolysis/DMT法は脱色・残渣処理が容易で、グローバルで唯一、事業化レベルで着色繊維をケミカル・リサイクルできる技術です。

国内におけるポリエステルの再生樹脂もPETボトルのマテリアル・リサイクルに依存しており、全体の需要から見れば再生樹脂の供給量は15%程度にとどまっています。繊維製品・衣服、工業用フィルム・樹脂・自動車、飲料以外のボトル、食品用トレイ・シートなどのブランドオーナーだけでなく、アカデミア、関係省庁を巻き込んだエコシステムの醸成に注力する必要があります。そのためには、ナッジ(※1)やブースト(※2)も重要ですが、国内の規制・ルール改正、経済的インセンティブが必須となってきています。

即ち、リサイクル技術の革新以上に、エコシステムの醸成が最重要課題であることを忘れてはいけません。

※1. ナッジとは、選択肢を狭めたり、経済的なインセンティブを大きく変えたりせずに、選択的アーキテクチャーを変えることで、より良い選択を促すこと。 具体例:省エネラベル、エネルギー、レポート

※2. ブーストとは、主体的に選択する能力を育てることで、より良い選択を促すこと。 具体例:環境教育

講師のご紹介

宮坂 信義
宮坂 信義
帝人株式会社 グローバル管理管掌補佐 兼 株式会社RePEaT 代表取締役

1995年 帝人株式会社入社、繊維研究所にて新素材の研究・開発に従事

2006年 経営戦略室

2012年 ポリエステル繊維の循環型リサイクルシステムの構築を目指し、中国企業との合弁会社 浙江佳人新材料有限公司を設立、帝人側代表 副董事長 兼 副社長

現在は、グローバル管理管掌補佐(2019年)、株式会社RePEaT 代表取締役社長(2023年1月~)、環境ソリューション部門(2023年4月~)を兼務

LGBTQ・性的指向・ジェンダーアイデンティティの多様性を尊重した社会の取組講師:日高庸晴/宝塚大学 看護学部 教授

LGBTQの存在を認識する

LGBTQをはじめとするセクシュアルマイノリティは人口の5~8%、高校生を対象にした調査では10%は存在するのではないかと推定されています。つまりクラスに3~4人は該当する児童生徒が存在する可能性があり、保護者の中の10人に1人はいずれカミングアウトされる親かもしれないということになります。

だからこそ一人でも多くの人が正しい知識や情報を持っていることが大切になります。LGBTQの児童生徒のいじめ被害や自傷行為経験率が多集団に比較して高率であることが国内研究においても繰り返し示されており、被害者・加害者・傍観者のいずれをも生み出さないことが重要です。そのためには、当事者はもちろん、周囲の児童生徒や大人達含めて認識をアップデートしていくことが求められます。

職場の中での人間関係を検証する

男女雇用機会均等法の改正指針では「職場におけるセクシュアルハラスメントには、同性に対するものも含まれる」「被害を受けた者の性的指向又は性自認にかかわらず」と明示されています。LGBTQに関しても差別的な意味合いを含む表現を日常会話の中でしていないか気を付けることが必要です。この点に関して学校や企業などで今すぐ、検証したり啓発に取り組んだりしたほうがよいでしょう。

また性的指向・性自認に関するアウティング(本人の承諾なしに言いふらす、暴露する行為)については、当事者約1万人を対象にした筆者の全国調査では4人に1人がその被害にあったことがあると答えています。全面施行されているパワハラ防止法の指針において、脅迫や名誉毀損、侮辱、ひどい暴言の一例として「相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む」とされ、労働法制のなかにもLGBTQに関することが含まれるようになっています。

同性婚の状況から見る社会の変化

2023年国会で「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」が施行されました。他国に比べて対応が遅れている日本ですが、オリンピック開催を機に東京都が条例を制定するなど動きがありました。また同性婚に賛成する割合も年々増えています。

しかし未だ同性婚は合法化されておらず、現在日本各地で集団訴訟がおこされているところです。

同性パートナー関係についての司法の判断や一部の自治体/企業の対応は変化してきていますが、まだ法的に公平性が保障されているとはいえませんし、トランスジェンダーの人権課題が解決している状況ではありません。

学校での問題

2015年の文部科学省通知の中に示された「性同一性障害に係る児童生徒に対する学校の支援の事例」では、制服が支援事例の最初にあげられており「自認する性別の服装・衣服や、体操着の着用を認める」とあります。これまでの調査で制服に対する嫌悪感について尋ねていますが、トランスジェンダーは学齢期に制服の嫌悪感を圧倒的に多く感じていることが示されています。望まない制服の着用が苦痛であったことが明らかになっています。

ジェンダーレス制服

「ジェンダーレス」とは「男女といった社会的性(ジェンダー)による差違を少しでもなくする」という意味で用いられていると思いますが、男女共通アイテムの同じ制服にすればいいというモデルチェンジの在り方は必ずしも適切ではないと考えられます。誰もが自分が望むジェンダーの装いをしたい、学校制服においてもそれは同じなのではないでしょうか。ジェンダーレスという耳ざわりのよい言葉で、本来求められている内容に対する対応が変わってしまっていないか、振り返りをしてみてください。また、女子スラックスの導入をしただけでLGBTQ対応をしたつもりになっていないでしょうか? 上下の組み合わせを自由に選べるような制服の在り方が、求められているように思われます。

学校での取り組み

制服について話題にすることは、LGBTQに取り組む際の切り口として分かりやすいでしょう。

ただ、その場合に留意しなければいけないことはジェンダーアイデンティティについてだけでなく、性的指向も含めLGBTQについてバランスよく取り上げることです。

前述のいじめ被害や不登校経験率が高率であることのみならず、自殺未遂リスクの高さなど国内外の多くの研究で示されています。この状況を改善するために教育現場ができることはまだまだあります。そしてそれは企業に求められる取り組みにおいても同様と思われます。

講師のご紹介

日高 庸晴
日高 庸晴
宝塚大学 看護学部 教授

京都大学大学院医学研究科で博士号(社会健康医学)取得。 カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部研究員、公益財団法人エイズ予防財団リサーチレジデントなどを経て現職。

最高裁判所/司法研修所による裁判官対象の研修や法務省の国家公務員人権研修、人事院のハラスメント研修等の講師を務める。法務省の人権啓発ビデオの監修、文部科学省が 2016 年 4 月に発表した性的指向と性自認に関する教職員向け資料の作成協力、自治体による啓発教材の監修を多く務める。

NHK「時論公論」「ハートネットTV」などメディア出演多数。