持続可能な社会構築へ向けて 気候変動への緩和と適応
- No.:
- 第23回 服育ラボオンライン定期セミナー
- 日時:
- 2020年11月20日(金)16:00-17:30
- セミナー:
- 持続可能な社会構築へ向けて 気候変動への緩和と適応
- 講師:
- 立命館大学 政策科学部 准教授 中野勝行
- PDF:
持続可能な社会構築へ向けて 気候変動への緩和と適応講師:立命館大学 政策科学部 准教授 中野勝行
1.気候変動(Climate Change)とは
気候変動というと日本では地球温暖化のことを指す場合が多いですが、本来は降水量の変化、海洋酸性化など気候の変化に起因する様々な問題が含まれています。
パリ協定(2015年採択、2016年発効)では長期目標として「平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つ。1.5℃に抑える努力を追求」を掲げています。
気温上昇についてはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が気候変動への対策を取らなかった場合約100年の間に世界平均地上気温が6℃近く上昇し、仮に対策をとったとしても若干の上昇は避けられないと報告しています。経済人の間でも気候変動によるグローバルリスクは大きな問題として認識されてきています。
この気候変動への対策には、「緩和」と「適応」という2つのアプローチがあります。
緩和は省エネやCO2回収などによって「人間活動による温室効果ガス濃度の上昇を抑制」すること。一方の適応は渇水対策や熱中症予防によって「最大限の緩和策でも避けられない影響を軽減」することです。
日本でも年平均気温の上昇や異常高温・異常低温の発生増加、降雨の集中化など気候変動による影響が年々増えており、緩和はもちろんのこと適応による対策が重要になってきているのです。
2.産業界における適応の取り組み
農業や産業界ではすでに様々な分野で適応の取り組みが進んでいます。
2011年のタイ洪水では浸水した工業団地に多くの日系企業があり甚大な被害を受けました。その被害は現地の工場だけでなく、部品供給の遅れなどによりタイ以外の工場にも大きな影響を及ぼしました。現在では多くの企業が気候変動リスク対策として、災害によって起こりえる影響とそれに対する適応を検討し取り組みを進めています。
また適応ビジネスとして、蚊が媒介する病気を予防するための蚊屋や塗料の開発、北極海の航行を支援する気象サービスなど様々な新ビジネスが生まれてきています。
私も気候変動による産業活動への影響について研究しています。気候によるリスクを発現させる「ハザード(災害外力)・曝露・脆弱性」の3つの要因を計算し、製品システムが気候変動から受ける潜在的影響(損失期待値)を導き出しています。これによりサプライチェーンの中のどこにどんなリスクがあるのか、そして人的、経済的にどのような影響を受けるかを可視化しています。
3.学校における適応
気候変動は学校における各種活動にも影響を及ぼしています。
例えば災害時に学校が避難所になるケースが増加すれば教室の使い方が変わってくるかもしれませんし、平均気温上昇で夏季イベントの開催日程や時間の変更が必要になってくるかもしれません。気候変動によってどのような影響があるのか想像し、その可能性を想定内にしておくことが必要なのです。その適応の中には今まで想像もしてなかったものも増えてくるかもしれません。
例えば工事現場などで見かけるようになった電動ファン付き作業服も、暑い日に子ども達の命を守るために必要になってくるかもしれません。この夏に話題になった猛暑の日の日傘もそうですね。これまでの常識にとらわれず、私たち大人が意識を変えていかなければならないのです。
想定外を想定内にする努力が必要です。そして最新の知恵や技術を積極的に活用しながら、子ども達を守るためにも適応に取り組んでいきましょう。
大学生からの取り組み紹介「気候変動適応×ビジネスチャンス発見ゲーム『気適deちゃんす!』」
企業が社会のニーズに答えるため、サービスや製品、技術を活用した適応策を考えるゲームです。イベントカード(気候変動による災害等)とアクティビティカード(人生の中の身近で日常的な事象)の組み合わせでどのような適応策があるか考えます。どんなアイデアでも認めあいながら進めていき、自由な発想を生み出します。
質疑応答
Q.生徒保護者に対して「適応」について一番伝えておくべきことは何ですか?
難しいですが一番は「命を守る」ことですね。「これまでは大丈夫だった」は大丈夫でなくなっているかもしれません。変化は起こりえるということを知っておいて欲しいです。
Q.SDGsや環境問題などを、生徒に自分事として考えてもらうのによい方法は?
自然とのつながりを実感する事です。野菜を育てる、自然の中で遊ぶなど自然との接点を持ち、そこでどういう変化が起こっているのか、自分の行動がどのような影響を及ぼしているのか、そして環境の変化がどう影響していくのかを実感することが大切になってきます。同時に人とのつながり、社会とのつながりも重要です。身近な小さなことでもいいので、コミュニティの中で自分の行動が社会を変えたという成功体験を積むことが大切なのです。
講師のご紹介
- 中野 勝行
- 立命館大学 政策科学部 准教授
2003年より一般社団法人産業環境管理協会にてサプライチェーンを通じた環境への影響評価手法の開発と普及に従事。
2017年より環境省気候変動の影響に関する分野別ワーキンググループ(産業・経済活動、国民生活・都市生活分野)委員。
2011年東京大学工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。
2018年より現職。趣味はアウトドア全般。
◆セミナー動画限定配信中
服育net研究所会員限定で配信中です。ご希望の方は会員申込みお願いします。