本物を探す力 ~若者ファッションを読み解く鍵~
- No.:
- 第9回 服育ラボ定期セミナー
- 日時:
- 2009年7月11日(土)
- メイン:
- 本物を探す力 ~若者ファッションを読み解く鍵~
- メイン講師:
- 株式会社ユキトリヰデザイン事務所 デザインディレクター 岡誠
- サブ:
- ファッションの変遷 ~衣服の流行から見る時代の変化~
- サブ講師:
- 服育研究会 西弘樹
本物を探す力 ~若者ファッションを読み解く鍵~講師:株式会社ユキトリヰデザイン事務所 デザインディレクター 岡誠
ルールってなんだろう
現代社会には多種多様なニュースソースが存在します。
例えばファッションの流行も、昔であれば雑誌やテレビ、映画など限られたメディアで得られた情報から生み出されてきましたが、今はインターネットを初めとする様々な入手経路からの情報で溢れています。
時に若者の情報収集能力は、我々大人よりも圧倒的に勝っており、彼らは様々なツールを使い、様々なニュースソースを元に、いろいろな世界を知り、興味を持つ事になるわけです。
例えば過去において大人達から全く理解がされなかった「ヤマンバ」だったり「ガングロ」と言った流行がありました。あの「特異な美意識」は一般社会からは理解のされにくい流行であり、また一見、無秩序な世界に感じるのですが、その世界にはその世界なりのルールがあり、彼らは彼らなりにそのルールにのっとっている事には代わりが無いのです。
我々が「常識」だと一般的に思っている…つまり社会的なコンセンサスを持つルールからすると、彼らの作ったルールが特異に見え、大きく乖離していると感じれば感じるほど、先生や大人たち、そして社会は「若い子の考えていることは分からない」と言うのです。
しかし無秩序で勝手気ままな彼等の世界にも、実はそこにも明確なルールや決め事があるのです。
つまり我々は何人と言えども、ルールの中でしか存在できないし、共存できないということなのかもしれません。「好き勝手にしているように見える彼等若者」も結局彼等の定めたルールの中にいるのですから。
学校のルール、若者のルール
社会のルールは時代時代によって変化していきます。
しかし学校のルールはどうでしょうか。ただ闇雲に「変えたくない」とおっしゃる先生が多いのではないでしょうか。しかし「変えたくない」という論拠はしっかりとしているのでしょうか。
ここでいうルールというのは単なる学校の規則だけのことでは有りません。伝統なども入ってくる場合があるでしょう。校風などもそうかも知れません。
しかし社会のルールが変わる中で、学校だけが変わらないと言う事が可能でしょうか。
先程の話の中にあるように、全てはルールの中に存在すると言うのに…です。
学校のルールの中に、学生が興味を持った世界のルールを持ち込み、学校の中にはルールが混在する。この混在したルールをどうするべきか決めるのは、先生方自身なのかもしれません。
例えば腰パンの方がかっこいいと思っている若者のルールが、そう着て欲しくないと考える先生方つまり学校のルールの中に入ってきて混在している状況です。
混在したルールに対し学校が「NO」とした場合、学校のルールは維持されます。
しかし中にはルールが混在してもいい…「YES」という自由な校風の学校もあります。
この判断は単にルールの混在を「許す」のか「許さないのか」という内部的なことだけではなく、自分達の学校は内部的にも外部的にもどうありたいのか? と言う事を決めるとても大事な事だと思います。学校のあり方が問われている事であるのだと。
事象としては単なる「腰履き」という問題が、実はとても重要な「学校のあり方」を問うているのだと思うのです。
またそれらを含めて先生方がお決めになるしかないことだと思います。
これは個人についても同じです。自分で納得した中でいろんなことを選んでいくのか、それとも人からどう見られたいというところを考えるのか、この葛藤がその人の人間味になっていくのではないかと思います。
理想の自分に近づくためのブランド
ブランド品とは高価なものであり上質で上品なものです。
しかしそれを身に着けたからといって全ての人誰でもが似合う訳ではないかも知れません。
大人にならなければ似あわない物も有るからです。
もしかしたらブランドはまだ世界に入るには若すぎる人や、闇雲にブランド至上主義的な人を無言で拒んでいるのかも知れません。
もしかしたら折角のブランド品も、その立ち振る舞いで似合わない人もいるかも知れません(これを私は不条理と呼んでいます(苦笑))
それでもそれを選び着用し自分が持っている理想の人間像に近づくためのひとつのツールとしてブランドであっても良いと思うのです。
高いブランドもあれば、安いブランドもあります。しかしブランド品と言われるものは、決して安く大量に作って誰でも良いからかってくださいでは無く、商品に込められた思いを感じて頂けるお客様に会話のキャッチボールをするように、心を込めて作っているのです。
このキャッチボールは私たち(ブランド側)にとってお客様ですし、先生方にとっては生徒さんということになるのかもしれません。
まずは心を通わせる事が大切なのではないでしょうか?
「選ぶ」についての二つの質問
今回セミナーに先立って先生方に二つの質問に答えていただきました。
このお答えの中から「選ぶ」とは何なのか、見ていきたいと思います。
Q1.「選ぶ」ということから何を連想しますか?
この問いには「メニュー」「お店」「色・デザイン」「嗜好品」といったモノを連想するという答えから、「仕事」「価値観」「人柄」といったコトについて書かれた方もおられました。中には「ふたつ」「複雑」といった抽象的なものや、「迷う」という選ぶとは反対軸にある答えを書かれた方もおられました。 だいたいこの質問をするとモノとコトが半々くらいになるのですが、今回もだいたい同じくらいの答えが返ってまいりしました。
Q2.皆さんの人生の中でもっとも印象に残った「選ぶ」という行為は何ですか?
こちらの質問になると先ほどとは違い、圧倒的にコトをあげられた方が多くなります。
「転職」「結婚」「進学」といったような、自分の人生の中の大切な一場面を皆さん明確に切り取られます。
「先生」という職業は、こういった大切な「選ぶ」場面に立ち会えるお仕事なんですよね。
私がデザイナーという職業を選んだ時も、ある美術教師の影響がありました。その先生の一言がなければデザイナーになっていなかったかもしれません。
「選ぶ」には様々な人の影響があると思います。自分で選んだ気になっていても、実はいろんな影響を受けて選ばされているということもあるのかもしれません。
諸説ありますが人間は「選ぶ」という行為を一日に1万7000回も行っているそうです。その中には「見る」や「持つ」といった小さな「選ぶ」から、人生の重要な選択となる「選ぶ」もあります。
何かを「選ぶ」と、その後には必ずその選んだ世界がついてきます。
もしも若者がある世界を選んだとしたらその選択を闇雲に否定するのではなく、年長者である私たちが経験に基づいてその世界が持つ危険性を予期し、想像し、伝えてあげなければならないと思うのです。
「選ぶ」能力は若者の方が優れています。しかしその選んだ「世界」を判断する能力は大人である私たちの方が勝っているのです。
「年上を敬いなさい」とただ言うのではなく、年長者が経験に基づいて先に起こるであろう事を、教え伝えることが大切なのだと思います。
それについて考えるきっかけがファッションやモードだったりというのは悪いことではないのかもしれません。
参加者のご感想
- 制服についての具体的なお話かと考えていましたが、もっと深くてどのような場面でも使えるお話だったので感動しています。選ぶというとは、その後ろにある世界観まで選ぶことであるということがよく分かりました。岡先生のファッションにも感動しました。かっこよかったです。(中学 家庭科教師)
- 選ぶという行為に責任を持たなければならない。その助言をしてあげるという場面にたくさん出会う職だと改めて思いました。(中学校教諭)
- 何回かセミナーに参加しており、各々素晴らしいセミナーですが今回が一番好きでした。すごく貴重な体験というか時間でした。(大学)
講師のご紹介
- 岡 誠
- 株式会社ユキトリヰデザイン事務所 デザインディレクター
1965年東京生まれ。1991年桑沢デザイン研究所ドレスデザイン研究科を卒業。同年フランスに渡り、パリオートクチュール組合学校二年次編入。終了後、新たにスタジオベルソーに編入し、卒業。帰国後、㈱トリヰに入社。大手アパレル婦人服デザイナーなどを経て、現在 1975年よりパリコレクションに参加し国内外から高い評価を受け続けるユキトリヰのデザイン事務所にてデザインディレクターとして活躍。
ファッションの変遷 ~衣服の流行から見る時代の変化~講師:服育研究会 西弘樹
50年代から現代までのファッションと時代背景
今回は岡様のセミナーの中で出てくるファッション予備知識として、メインセミナーに先立ちサブセミナーを行い、1950年代から現代までを当時の時代背景と絡めながらファッションの移り変わりを見ていきました。
戦後である1950年代は、米国式の生活様式がいっきに入ってきた時代です。ファッション面では映画からの影響を受けた“まちこ巻”や“ヘップバーン・スタイル”、“太陽族スタイル”などが流行りました。
高度経済成長期の1960年代には、アイビールックの流行から“みゆき族”と呼ばれる若者が出てきたり、ツィッギーが火付け役となったミニスカートが大流行した時代でした。
高度経済成長から第一次オイルショックへと激変した1970年代には、社会問題に呼応するように“ヒッピースタイル”や“フォークロアスタイル”が出てきました。またファッション雑誌の創刊が相次いだのもこの時代で、若者のファッションに大きな影響を与えました。
バブル経済への階段を登り始める1980年代には、DCブランドがブームになりました。ハウスマヌカンといったファッション界で働く人のスタイルが話題になったり、テレビに影響を受けたファッションがブームになった時代でもありました。
バブル経済の絶頂と崩壊を経験した1990年代には、ボディコンスタイルやシャネラーといった特定のブランドで身を固めたファッションなどが話題になりました。また女子高生ファッションが脚光を浴びた時代でもありミニスカートやルーズソックスが全国で大流行しました。
そして2000年代の現代はというと、多様なファッションが次々と生み出される時代になっています。マンガや映画の登場人物を真似たスタイルから、“ヒップホップスタイル”、着ぐるみを着て歩く“着ぐるみん”など同じ年代の中にも様々な価値観が混在しています。
また近年はユニクロ、H&Mといったファストファッションと呼ばれる、安価でファッション性の高い商品を提供するショップの人気が高まり話題になっています。
参加者のご感想
- 最近になるほど「へぇ~」と驚くばかりです。「わからない」ファッションです。(中学 家庭科教師)
- 時代背景、ファッションの流れを分かりやすくお話いただけてよかったです。(大学)